2008年10月16日

「おくりびと」

 不思議の森


 この所、忙しい日が続いたのに、ブログは全く手つかずだった。時差ぼけの方はやっと正常に戻ったかな。
 元ドイツ在住で、今は本格的にイスランカに腰を据え始めた友人が、二年ぶりに京都で個展をした。8人集まった人達のうち、6人が喫煙者だった。家に帰るまではわからなかったけれど、下着までたばこの匂いが染みこんでいた。禁煙する人が増えているのに、彼女を取り巻く人達は、皆たばこが離せないようだ。ニューヨーク在住30年の女性、スリランカで画廊と商売を営みながら、日本でも本業に勤しんでいる女性、ドイツに本拠地を持ちながらも、バングラディシュ、インド、アフリカなど世界中を渡り歩いて来た女性、彼女達は、皆腹をくくっている。健康を気にしてタバコをやめるような事を考えたりしないようだ。楽観的で、おおざっぱで、懐が大きいとも言えるかもしれない。

 


 昨日、友人と別れてから時間があったので、久しぶりに映画を観た。「おくりびと」という日本映画で、モントリオール映画祭のコンペティション部門でグランプリを取った作品だった。
 観て、泣いて、しみじみと心を打つ映画だった。人それぞれに、様々な人生があるけれど、死は、全ての人間に訪れる。その人を美しく輝かせ、この世の最後の別れをする死者を清め、死に装束を着せ、化粧を施す、納棺士という作業を通じて、人間の尊厳性が見事に表現されている。
 水辺を飛び立つ白鳥も、人生のしがらみや苦しみの中で、賢明に生き、死を迎える人間も、皆全て愛しく美しくも、哀しい存在だ。人間の死を自分とは関係のないように無関心に生き、納棺という仕事に汚らわしさを感じる人々は、自身の家族の死に直面し、厳粛に、心をこめて、死者の納棺までの作業を見つめるうちに、感謝とともに、自分自身の死を思いやるようになる。死者を弔う仕事をし、腐敗した身体に嗚咽するのに、クリスマスにブロイラーをむさぼるように食べられる。「困ったことに美味しいのだ。」と。
 




 私達人間もそういう事と同じだ。愛する人を失い、哀しみにくれているばかりではない。死者を食って、残された人間は生きている。遺産を残してもらう。生きている間は、けちだと罵倒していた人が、亡くなると急に神様のように言われたりする。死者は美しい。思いでの中で、死者は生きている。思い出は、生きている人の中で、膨らみ、より美化される。
 けれど、死んでいく人達は?美しく輝かせるのは、納棺士の仕事、人間が生涯かけてやる価値のある仕事をする「おくりびと」がいる。

 

 この映画は、納棺という作業を側面から捉え、死者をおくる「おくりびと」としての私達、全ての人間にスポットをあてている。だからこそ、モントリオールの審査員の心を深く動かしたにちがいない。

   

Posted by アッチャン at 02:52Comments(0)映画