2010年01月13日

ケーキの箱が空っぽ




3日ぶりに、母に会いに行った。明日から、寒波がやってくるらしい。昨日、買っておいた、菓子パンと、途中で、皆さま用のケーキを買って持って行った。一階の、テーブルに、温かそうな色のテーブル掛けがかかっている。クリスマスに使ったものらしい。寒い時に、赤い色を見ると、温かくなったように感じる。思い出せば、デンマークに行くと、家々の、インテリアや、屋外の色に、赤が目立っていた。サンタクロースの白と赤は、
雪と、暖炉の赤い火を表現しているのかも。


面会帳に記入して、エレベーターに乗せてもらう。4階のリビングに母の姿がない。
[お母さんあてに、荷物が届いています。この方からで、お母さんに、渡しましたが。]と職員が見せてくれた、送り主は、息子の名前で、私が送ったものだった。
息子が所有している、バンダイという株から、送られてくる、株主優待が、イタリアントマトの千円券か、お菓子を郵送してもらうかのどちらかを選べるようになっている。それで、母に息子の名前で送ったものだった。

母は部屋にいて、なにやらごそごそ、箪笥の中を探している様子。毎日、何十回となく、箪笥の中を探している。財布を探している。
お金がなくて、不安がっている。窓から見える、自分のアパートに、帰ろうと思うのだが、財布がない、と探すのだ。
「いつまでもこんな所で、遊んでばかりいられないわ。そろそろ帰らなくちゃ。」窓を見ては、そう思う。
持ってきたパンを見せると、母は、「お腹が一杯だから、明日にでもいただくわ」というので、箪笥に入れると、財布を探して、箪笥の中に入っているパンを見て、「あなた、これ持って帰りなさい。」と私に食べさせようとする。
「これ、私が、お母さんに持ってきたものよ。」何度、この会話を繰り返すことだろう。いたちごっこだ。
息子からの送った、ケーキはどこにあるのだろう。箪笥の中に、ケーキの箱らしいものがある。中身はない。
「あら、お母さん、箱が空だわ。食べたのね。」
「私は、ケーキなんか食べてませんよ。そんなの、知らないわ。」
ゴミ箱に、食べた後の袋が6つ。
「お腹空いてないでしょ。」
「そうなの。今朝から何もほしくなくて。不思議に、お腹が空いていないのよ。」
何時来たのだろう。職員に聞くと、今朝だ、という。
 どうりで、私が持ってきた、パンも、食べられないはずだ。
 母は、食べたことを忘れ、食べていないと思い込んでいるので、次から次に、食べて、美味しいと食べて、なくなるまで食べてしまった。
アパートが見える窓辺に立って、母は言う。

「あそこに帰れば、お隣も、お隣も、。やあ、帰ってきたの?って。周りにお友達がいるから、心配ないのよ。ここにいると、呑気だけど、私もすることが一杯あるから、遊んでいられないのよ。」
 母に取っては、自分の家ほど良いものはないだろう。だから、出来れば、家で暮らせる方法はないだろうか、と思う。けれど、母には、無理だ、ということも、わかっている。

 「夜、寝る時に、このまま死んでも良いわ、と思って、こてんと眠るのよ。起きてください、と誰かが呼ぶので、また目が覚めるの。生きているわというようなもの。一日が過ぎて行くの。気楽なもの。」

 朝の目覚めと、共に、生まれ、夕べには、死を前にして、熟睡する。達観した生き方というのを、母は実践している。

  

Posted by アッチャン at 01:51Comments(0)日々の事