2012年01月12日

幸せな親子

 
  



 母に会いに行き、夙川駅の近くにある駐車場に、車を置かせてもらって、電車に乗った。十三で乗り換えて、叔母が入院している病院に行く。雲雀丘行きの普通電車が来た。
 叔母の病院は、宝塚線で、急行の豊中か、普通の岡町で降りると、どちらからも、歩いて15分ほどの所にある。岡町は、昭和の匂いが漂う、商店街を通るので、15分の歩行距離が、短く感じられる。
十三に停車している車両に、手をつないだ親子が、入って来て、私の向かいの席に座った。
 年老いた母親の手を引いていたのは、息子のようだ。
私の母くらいかな、それとももっと年齢は高いかもしれない。編み上げの毛糸の帽子をかぶり、煉瓦色のハーフコートを着て、トレーニングズボンのようなものの足下に、靴下をかぶせている。寒そうな布ぐつを履いている。衣服は、何十年も着ているような古ぼけたものだけれど、しっかりした顔立ちで、矍鑠としたものを感じる。
 息子は、草色のリュックサックを膝に置いて、時折目を開けたり、閉じて、じっと物思いにふけっているようだけど、人の良さそうな顔で、手は母のごつごつした手よりも遙かにきゃしゃで、小さく見える。
 息子の身なりも、じつに粗末で、綿パンの下のほうが、ほつれて破れが見える。
 「北の国から」の田中邦衛が演じている、五郎ちゃんに似た雰囲気で、優しさがにじんでいる。
  寒さが一段と身に染みる、その日、外は、空っ風が強くて、私は、暖かいダウンを来ていても、冷たさが身体に染みるほど。
 母親は、きょとんと綺麗な瞳で窓からの景色を追っている。
 身なりの貧しさに、寒さを心配し、叔母に持って来た、プリンの箱を、差し出したい衝動にかられたけれど、そんなことは、失礼だ。
 親子の表情や、様子を見ていると、心が熱くなる。暖かい心を持った、優しい息子に、寄り添って、信頼しきっている母親、素敵な親子だ。憧憬にも似た気持ちで、目が離せずに困った。見ない風に、見ていた。寒々しいのは、私の方だった。

息子と手と手をつないで、家に帰る道だろうか。幸せとは、こういう親子の姿だと思う。
 屈託のない、美しい、表情、親子の間に流れる暖かい心と揺るぎない信頼。

電車の中に、若いカップルが。豊中えびすと書いた札が見える。大きな笹をかかえている。小判と印刷した万札がつるしてある。これから、笹を返して、新らしい笹を買いに行くようだった。
   

Posted by アッチャン at 18:01Comments(0)日々の事