2012年08月18日

映画「かぞくの国」

    映画「かぞくの国」

 「かぞくの国」室内から、むせび泣く声が聞こえた。
終わって、すぐに出て行く人はほとんどなかった。
 言いようのない、暗い重さと、自由の国で生まれ育った、妹の兄への率直で影のない明るさ、そして在日朝鮮人の「オモニ」の息子への愛情の美しさが際だった。
 16才で、夢の国を信じて、息子を北に帰した、父親は、朝鮮人としての誇りと忠誠を持ち続けている。25年ぶりに、治療目的で、3ヶ月の帰国が赦された息子には、同行してきた監視役が、24時間言動を見張っている。兄に課せられた、役目があって、妹を日本でのスパイ活動に引きこむこと。
 真っ向から断る妹。買い物に出た兄は、ウインドウに飾ってあるスーツケースに魅せられて、店内に入る。
  リモワの銀色のスーツケース。値段を見て高価なのに驚く。
 スーツケースは、自由の象徴で、どこにでも好きな旅に出て行ける、自由、兄の境遇では、到底望めない世界、妹には、そういう世界で生きて欲しい。 あの時、もしも父に反発して、帰国を断っていたら、好きな女の子と結婚も出来たかもしれない。父親に抵抗することが出来なかった、優しい気弱な息子。父に逆らう勇気があれば、違った生き方が出来た。日本の歌を自由に口ずさむことも赦されない世界。
 北朝鮮には、妻と子供達がいる。


映画「かぞくの国」

 突然の帰国命令。明日、帰国しろ、という命令の電話が、上層部から監視役の同胞に宣告される。なんとしても兄の手術をしてあげたいと、必死になっていた妹は、突然の帰国命令、その意味が理解出来ない。病気を持ったままの帰国は、兄に死を宣告することに等しい。問い詰める妹に、兄は言う。
 「あの国では、考えると、頭がおかしくなる。だから考えることをやめた。あの国では、ただ従うだけなのだ。突然、何が起こるかわからない。命令が下されるままに、受け入れる、それしかない。」

母親は、貯金箱の仕送りに貯めているお金を出して、かけて出て行く。
 翌朝、監視員が迎えにやってくる。
 真っ新の洋服を息子に用意した母親は、監視員にも、心づくしの背広とボストンバッグに入れた洋服類を用意していた。
 何もしてやれない母親の替わりに、せめて息子の為に、監視員が力になってくれる事を信じて。母親は、自分達を見張っていた、その監視員にも、家族があるでしょう、と言う。
 新しい洋服に身を包んで、車に乗り込む兄。妹は、兄の手を離さない。車から出た兄は、無言で妹を抱きしめて、促されて、再び車に。引き裂かれるように、車は妹の手を振り払って、走り出す。

映画「かぞくの国」

 泣きくれていた妹は、突然、出て行く。
 リモワのスーツケースを買って、繁華街から大通りの交差点を、それを引いて歩く妹の姿で、この映画は終わっている。

 果たして、それを兄に届けたのだろうか?そうではないと思う。兄の束縛を、はねのけるように、妹が、朝鮮という国との決別、自由の国で、何者にも、たとえ、親の束縛にも
 反抗し、自ら信じた道を生きて行こうという、決意がそこに描かれている。

 妹の目線で描かれた、この映画は、彼女の実話をもとにして、ヨン、ヤンヒ自身が、脚本と監督を手がけている。演じているのは、奥田英二と安藤かずの娘、安藤サクラ。
 この女優は、素晴らしい感性と、豊かな才能を持って、この役を見事に演じている。
 兄ソンホ役には、昨年CX「蜜の味~A Taste Of Honey~」に出演し、今年もNHK大河ドラマ「平清盛」、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』他、待機作が目白押しの井浦新。
 「密の味」で初めて見てから、憂いを含んだ個性的な俳優だ、と注目していた、希有な役者の一人。 

 母親役には、いつも明るさと聡明さが際立つ、宮崎美子が演じている。



  少年の頃、拉致されて、北朝鮮で、幹部になっている息子の元を、何度も訪れている、母親がいる。母と息子の、遠い隔たりを、長年に渡って。通い続けた母親。持てるだけの荷物を運んで、仕送りを続け、幾度となく、北への道を目指した母親
 の気持ちが、この映画の中の母親の姿から、想像される。北に仕送りを続ける在日朝鮮人の人達の心も。

http://kazokunokuni.com/s_phone/cast.html 
 
 


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Posted by アッチャン at 19:04│Comments(0)映画
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