2009年11月08日

ヴィヨンの妻

 ヴィヨンの妻

http://www.villon.jp/

前から,楽しみにしていた映画「ヴィヨンの妻」を観た。久しぶりに梅田に。バスの中で、電車のチケットを探していたら、10月末で期限切れになっているのが、数枚あって、2千円ほどがパー。格安とか、時差とか、こまめに分けて買っていて、安もの買いの銭失いとは、こういうこと。泣く泣く、無効のチケットを破る。
 映画館は空いていた。狭い部屋なのに、結構空席があった。
久しぶりに、見応えのある映画だった。終わってからも、作品に引き込まれて、ずっと頭の中に残っている。ヴィヨンは、1431年ころに生まれた、殺人、窃盗、投獄、死刑宣告を受けて、後に、10年間の追放になった、放蕩詩人。ヴィヨンは、自分の天性が泥棒か、詩人かわからないと書いている。「ヴィヨンの妻」の才能非凡な作家、大谷は、妻になる、サチが盗みで、警察で、弁明しているのを垣間見て、窮地を助け、それがきっかけで結婚するが、大谷自身、泥棒癖がある。
ヴィヨンの妻、さち、に語らせた言葉は、フランス文学の神髄を見るようだ。
彼女が恋した、貧しい法学生が、[寒いので、襟巻があれば]と言った言葉を聞き、デパートで、それを盗んでしまう。交番所で、彼女は自分には罪がないと主張する。
貧しく生まれ、両親の為に働き、親孝行をしてきました。貧乏で、襟巻が買えません。貧しく、寒さに震えている人を温めてあげたいと願い、デパートの襟巻を見ていて、お金がなくて買えなくて、それをもらっても、罪ではないと思います。

生きる権利として、飢えているものが、店先のパンを盗んでも、それは正当な人権であるという、フランス的ヒューマニズムが歌われる。彼女は、野に咲く、タンポポにたとえられる。踏まれても、踏まれても、新鮮な明るい色の小さな花を、太陽に向かってまっすぐに咲いている、タンポポ。
その誠実さ、強さは、主人公のヴィヨン(大谷)が、求めながらも、自分には、とても出来ない。優しさ(人を憂うる気持ちはある)が、女のように、逞しくも強くもない。酒を飲み、溺れていなければ、ものも言えない。
ヴィヨンの詩の中で、恋焦がれる女性から、「死になさい。」と言われるというフレーズが出てくる。「ヴィヨンの妻」の中で、「死にたいのですか。」と妻に語らせている。おそらく、大谷は、妻のさちのもの言わぬ目に、「だったら、死んでごらんなさい。」と開き直られることに、はにかみ、で答えるしかできなかった。
 女性の強さ、健気さは、大谷が(マリア:母)として、すがる存在でありながら、それを、痛めつけ、破壊したい欲求の対象でもある。しかし、彼女は、酒屋で、夫の借金の為に働くが、美しくなり、生き生きとして、男達の憧れの的だ。

大谷を桜桃、さちをタンポポに例えている。桜桃は、人肉の味に似ていると、どこかで聞いたことがある。腐りかけの桜桃は甘味が増して美味しいので、好まれる。 
心中の失敗で、新聞に、人非人と書きたてられた大谷が、酒屋に、サチに会いにくるが、新聞をさして、自分は人非人になってしまったと言って寂しそうに、外に出ていった後を追ってきた。、大谷が、手にサクランボを出し、「子供にと送って来た、さくらんぼを、自分が食っている、」と言って掌に載せて、口から吐き捨てるように種を出すシーンがある。
妻は、その掌にあるさくらんぼをつまみ、「美味しいわね。」と言って、そっと小さく吐き捨てる。
「人非人でもかまわないじゃないですか。生きてさえいれば。」
映画は、ここで終わっている。
ヴィヨン(大谷)は、おそらくこの先も、放蕩と泥棒癖はやまないだろう。

「人を憂い、ひとの寂しさ侘しさ、つらさに敏感な事、これが優しさであり、また人間として一番優れていることではないかしら、そうしてそんな優しい人の表情は、いつでもはにかみがあります。私は、はにかみで、われとわが身を食っています。酒でも飲まなきゃ、ものが言えません。」
太宰治のこの言葉が、この映画での、ヴィヨン(大谷)の生き様(テーマ)になっていて、その現実を、憂いを持って、共感し、その人の傍に寄り添う、マリア(母なるもの)の権化として、妻、サチの存在が描かれている。

 


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Posted by アッチャン at 15:35│Comments(0)映画
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